夏暑く冬寒い、断熱性のないミニ別荘の問題

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バブル経済が華やかだった時代には、日本全国でリゾートブームが沸き起こり、いわゆるミニ別荘なども盛んに新築・分譲されていました。
ミニ別荘とはいっても、特に定義があるわけではありませんが、たとえば1LDKや2LDKなどのごく簡素な間取りで、価格的にも数百万円台で購入できる程度のものと考えればよいでしょう。

バブルが崩壊して久しく経った現在では、このようなミニ別荘は最早投げ売り状態で、ほとんど価格がつかないこともあります。逆にいえばお金がない人にとっては低価格でマイホームを手に入れられるチャンスが到来したともいえますが、現物をよく確認しないと後悔だけが残る結果となってしまうことがあります。

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ミニ別荘が多い地域とその特徴とは

ミニ別荘が多いのは、二束三文にしかならないはずの土地を開発して巨大な利益が見込まれる地域、というのがデベロッパーの立場から見たときの現実です。そのため需要がそこそこ見込める東京近郊にある田舎で、山地や谷津(谷間の湿地帯)などの地形的な制約、または電車やバスが通っていないなどの公共交通の問題から、これまで手付かずの土地が残っていたような場所がまずは候補に上ります。

このような条件を満たす地域としては、たとえば山梨県の北杜市など八ヶ岳の山麓、海沿いの茨城県鉾田市や千葉県山武市・大網白里市、群馬県の前橋市・沼田市といった赤城山麓、栃木県那須塩原市や那須町の那須山麓などが挙げられ、実際に現地に行けば、当時のミニ別荘開発のよすがを見ることができます。

個別のケースによる違いがあるのは確かなことながら、総体的にみれば、傾斜地が多かったり、冬場は積雪があるか、積雪はないまでも寒暖の差が激しいために、一般の住宅を建てるにはかなり難点が多いはずです。

ところがあくまでも別荘としての利用であれば、傾斜地というデメリットを逆に「見晴らしが良い」というポジティブな意味合いに捉えることができますし、気候についても夏休みや週末だけの利用であれば我慢の限度内です。
もともと低価格で庶民レベルでもリゾート暮らしの夢が実現できるということもあり、冷静に見ればデメリットが多い物件であっても、バブル崩壊前には飛ぶように売れていました。

一億総貧困化で「別荘」が「終の棲家」に

ミニ別荘を購入した世代も今では高齢化し、傾斜の多い場所、気候的な変化の大きな場所でのセカンドライフには魅力を感じなくなってきています。単に所有しているだけでも草刈りや清掃、通風などのメンテナンスの手間がかかり、場合によっては別荘管理費や固定資産税といった金銭的な負担もあることから、あえて所有を続けるよりも、不動産会社を通じて売却という方向に向かうのは当然の成り行きです。

そのいっぽうで、消費税増税をはじめとして、年金保険料や健康保険料などの負担に苦しみ、ブラック企業の隆盛で手取りが少なくなった現役世代が、アパートの家賃を支払う代わりにこうしたミニ別荘を取得するパターンや、新築すれば数千万円クラスの一般的なマイホームを持つゆとりがない年金生活者が終の棲家としてミニ別荘を取得するパターンも現れています。
以前であれば「一億総中流」といわれていたものですが、格差社会の度合いが増して「一億総貧困化」ともいえる時代に突入した現在、ミニ別荘はマイホーム需要の面からも注目されるようになっています。

ミニ別荘の断熱性には要注意

ミニ別荘をマイホームに転用する場合にはいくつか注意が必要ですが、そのなかでも深刻な問題としては、断熱性能のなさが挙げられます。
ミニ別荘の建築はあくまでも「別荘仕様」であって、通年の生活を前提としてはつくられていません。もちろん建築基準法をはじめとする諸法令に違反する建築物ではなく、開発行為や建築確認をクリアする正規の建築物ですので、一応はグラスウールの断熱材なども入ってはいるものの、その断熱性能は貧弱といわざるを得ません。

その結果としてどのような問題が発生するかですが、たとえば茨城県の大洋村、現在の鉾田市のミニ別荘の事例ですが、夏場は室温が37度、冬場は室温がわずか2度といった、典型的な「夏暑く冬寒い」といった状態になります。
参考までに、この地域の外気温は-4度から37度あたり、平均すれば20度程度で比較的温暖というのが例年の数値ですので、実は建物の内側でも戸外にいるのとほとんど変わらないか、逆にひどいことさえある温度というお粗末さです。

もちろんこれでは冷暖房がなければとても生活できるはずがありませんが、現在この地域で100万円から300万円程度で販売されている中古のミニ別荘の場合、コスト削減のために平らな天井を張らずにロフト式、あるいは切妻屋根の下を吹き抜けのようなつくりにしていることが多く、冷暖房の効果もいまいちなことが多いのが実情です。
極端な言い方になりますが、投げ売り状態のミニ別荘のなかには、夏は室内にいても熱中症、冬は低体温症の危険性さえある物件が混じっていると認識したほうがよいでしょう。

対策は可能だがコストが問題

ミニ別荘をマイホームとして利用したいのであれば、ベースとなるミニ別荘の建物そのものは安く購入して、そのあとでリフォーム工事をすることによって断熱性能などの快適性を高めるといった工夫もできます。
たとえば前出の事例であれば、最新の断熱材を施工することによって、室内温度に4度から6度程度の差が生まれることがあります。サッシごとペアガラスに交換したり、風呂場を気密性の高いユニットバスに交換したりするのも有効です。
これらの工夫を通じて室温が一定の範囲におさまれば、クーラー、エアコンなどの装置による温度調整も十分に機能します。

問題は断熱対策にあたってのコストですが、100万円程度の格安別荘であれば、かえって後からこうした工事をするコストのほうが、土地・建物トータルでの購入価格を上回ってしまうことがあります。ならば最初から多少は高くてもつくりがしっかりとした中古住宅を選ぶのがよいということもあり得ますので、間取りや築年数、外観などの要素だけに惑わされずに、生活を続ける上で必要な機能性についても、内覧などの際にはよくよくチェックすることが重要といえます。